ランサムウェア被害も、なりすまし詐欺による不正送金も、たどっていくと入口は「盗まれたID・パスワード」だったというケースが目立ちます。フィッシングや使い回しによって認証情報が一度流出すれば、パスワードだけの防御はほぼ無力です。本記事では、多要素認証(MFA)とパスキー(FIDO2)の基本、国内で実際に起きた被害事例、SMSやプッシュ通知だけでは防ぎきれない攻撃、そして中小企業でも無理なく進められる導入ステップを解説します。
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これまでのデータ侵害によって、数十億件規模のID・パスワードの組み合わせがすでにダークウェブ上に流出しているといわれています。攻撃者はこれらを自動ツールに読み込ませ、標的のサービスへ大量のログイン試行を仕掛ける「クレデンシャルスタッフィング」を常態的に行っています。複数のサービスで同じパスワードを使い回していれば、どこか一つの漏えいが、他のすべてのアカウントへの不正ログインにつながりかねません。
加えて、生成AIによって自然な日本語のフィッシングメールが誰でも量産できるようになったことも、ID・パスワードの窃取をさらに容易にしています。社長や役員になりすます「ニセ社長詐欺(BEC)」やPayPayをかたるSMS詐欺も、突き詰めれば入口はアカウントの乗っ取りです。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、認証情報の窃取を起点とする不正アクセスへの対策として、多要素認証(MFA)やFIDO/FIDO2(パスキーなど)の利用が明記されています。パスワードという「知識」だけに頼る認証は、もはや十分な防御とはいえません。
「対岸の火事」ではありません。国内でも、認証の甘さがそのまま重大インシデントにつながった事例が相次いでいます。
2つの事例に共通するのは、「パスワードさえ知っていれば、誰でもログインできてしまう状態」が突破口になった点です。多要素認証を適切な方式で導入していれば、いずれも被害を防げた、あるいは被害を大幅に小さくできた可能性があります。
多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)とは、「知識」「所持」「生体」の3つの要素のうち、2つ以上を組み合わせて本人確認を行う認証方式です。
代表的な方式には、以下のようなものがあります。
「MFAさえ設定すれば安心」というのは、実は正確ではありません。どの方式を選ぶかによって、防御力には大きな差があります。
つまり、SMSやプッシュ通知型のMFAは「何もないよりはるかにマシ」ですが、フィッシングやなりすましに強い方式ではありません。この弱点を構造的に解決するのが、次に説明する「パスキー」です。
パスキーとは、パスワードそのものを使わない認証方式です。国際標準規格「FIDO2」にもとづき、スマホの生体認証や画面ロックで本人確認を行うと、公開鍵暗号の仕組みでログインが完了します。
最大の特徴は、秘密鍵が本人の端末内に保管され、サーバー側やネットワーク上に一切送信されないことです。従来のパスワード認証では、偽サイトにパスワードを入力してしまえばそれだけで盗まれますが、パスキーには盗まれる「文字列」自体が存在しません。そのため、構造的にフィッシングが成立しにくいという強みがあります。
Apple・Google・Microsoftはいずれもパスキーに標準対応しており、国内でも導入が進んでいます。楽天証券は2025年10月26日にFIDO2パスキー認証を導入、SBI証券も同様に対応を拡大。SMBC日興証券は2026年4月下旬以降、取引や出金時のパスキー認証によるログインを段階的に必須化し、2026年8月21日からは、パスキーを初めて設定する際にマイナンバーカードまたは運転免許証によるオンライン本人確認を必須にしています。メガバンク各行のアプリでも、FIDO2ベースのセキュリティキー認証への対応が進んでいます。FIDOアライアンスの発表によれば、2026年5月時点で世界の利用中パスキー数は推定50億個に達したとされ、決して一部の先進企業だけの取り組みではなくなっています。
両者は対立するものではなく、役割が異なります。MFAは「既存のID・パスワード認証に、追加の要素を足す」仕組みであるのに対し、パスキーは「ID・パスワードそのものを置き換える」仕組みです。
実務では、次のようなハイブリッド運用が現実的です。
「全部を一気にパスキーへ」ではなく、使えるところから段階的に置き換えていくのが現実的な進め方です。
パスワードだけに頼る認証は、もはや「弱いドアに鍵を一つかけているだけ」の状態です。多要素認証とパスキーを組み合わせ、「入口」そのものを固めることが、情報漏えい・なりすまし・ランサムウェア対策すべての土台になります。
バンブーハウスでは、ホームページ制作・システム開発からセキュリティ対策・認証基盤の導入支援まで、中小企業のデジタル活用をワンストップでサポートしています。多要素認証・パスキーの導入計画や社内ルール整備についても、お気軽にご相談ください。
MFAは、既存のID・パスワード認証に「もう一つの要素」を追加してログインの安全性を高める仕組みです。一方パスキーは、パスワードそのものを使わず、公開鍵暗号と生体認証・画面ロックの組み合わせでログインする仕組みで、盗まれる「文字列」自体が存在しません。パスキーはMFAの一種というより、パスワードに代わる次世代の認証方式と捉えるのが近いイメージです。
何も設定していない状態よりは、はるかに安全です。ただし、電話番号そのものを乗っ取る「SIMスワップ詐欺」が使われると、SMS認証コードごと攻撃者に届いてしまう弱点があります。可能であれば、認証アプリ(TOTP)やパスキーなど、より耐性の高い方式への移行をおすすめします。
サービスによって復旧手順は異なりますが、多くはリカバリーコードの利用や、別端末・別の認証方法での本人確認によってログインを回復できます。重要なのは、端末紛失を想定した復旧手順を、導入前のパイロット段階であらかじめ確認・共有しておくことです。復旧手段を決めないまま導入すると、紛失時に業務が止まる「ロックアウト」が起こりえます。
はい、企業規模に関わらずおすすめします。Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、多くのクラウドサービスは追加費用なしでパスキー・MFAに対応しており、特別なシステム投資がなくても始められるケースが多くあります。まずは無料で使える範囲から、経営層や経理担当など被害の大きいアカウントに絞って導入するのが現実的な第一歩です。
攻撃者が盗んだID・パスワードでログインを試み続け、プッシュ通知型の承認リクエストを大量に送りつけることで、うんざりした本人に誤って「承認」を押させてしまう手口です。身に覚えのない承認通知が続いたら、絶対に承認せず、すぐにパスワードを変更してください。根本的な対策としては、通知の「承認」操作だけで完結しないパスキーやハードウェアセキュリティキーへの移行が有効です。
おすすめしません。全社一斉切り替えは、ログインできないという問い合わせが一時に集中し、現場とヘルプデスク双方の負担が大きくなります。まず少人数でパイロット導入して手順を固め、被害の大きいアカウントから優先的に、部署やシステムごとに段階を分けて広げていく方法が現実的です。
はい。バンブーハウスでは、多要素認証・パスキーの導入計画づくり、社内ルールの整備、社員向けのセキュリティ研修、Webサイト・システムのセキュリティ強化までワンストップで支援しています。中小企業の体制や既存システムに合わせたご提案が可能ですので、お気軽にご相談ください。